巨大企業が農業参入

アリババなど中国の巨大企業が農業参入、京東、碧桂園も 中国農業は活性化している。サプライサイドの機構改革、農村の貧困撲滅など、政府の掲げる振興戦略に、民間の大資本が呼応しているのだ。しかもITや、不動産開発など異業種の巨大企業だ。農業と農村は今や“資本熱土”と化しているという。「農業行業観察」「今日頭条」などのメディアが、中国農業の新しい状況と展望を伝えた。 ■投資の傾向 農業農村部(農水省に相当)によれば、2018年第1四半期における農業投資の特徴として、以下の3点が挙げられる。 (1) 政府投資の拡大ー中央政府予算からの農林水産業支出は、プロジェクト執行数で11.4%増加した。 (2) 民間投資の急拡大ー各種の統計から、ここ2ヵ月の民間農業投資は919億3000万元、前年同期比24.4%増になったとみられる。昨年の伸長率は、年間を通して11.1%であった。 (3) 投資領域の拡大ー農産品加工業、週末農業やふるさと観光、農業廃棄物の再資源化、農村Eコマース、特色新産業などへ、投資分野が広域化している。 この他に特筆すべきは、ネット通販首位・アリババ、同2位・京東/JD、不動産開発最大手の碧桂園など、現代中国を代表する大企業が参入を強めていることだ。以下、各社の動向をみていこう。 ■アリババの取り組み アリババの取り組みは2つある。1つめは、6月上旬のクラウドコンピューティング開発者大会で発表した「ET農業大脳」と呼ぶ、AI技術を駆使した養豚である。画像識別により、体重、食事状況、運動頻度、免疫状況、行動特性を掌握し、赤外線測定技術により、体温、咳、叫び声から、病気の予防、健康管理を行う。 もう1つは、山東省・青島の「海水稲」研究開発団体と、淘宝(アリババのC2C通販サイト)との提携である。両者は協力して1ムー(666.7平方メートル)当たり1000ドルの利益を目標に掲げている。同団体を率いる、袁隆平氏は“雑交水稲の父”と呼ばれる有名人で、海水稲は、その名の通り、塩分濃度の高い土地での稲作を研究プロジェクトだ。農村の脱貧困も目指す計画である。 ■京東/JDの取り組み 京東の取り組みもやはり2つ。1つめは、2017年、養鶏農家に融資して鶏に“万歩計”を装着させたプロジェクトだ。そして放し飼いをさせ、100万歩以上走り回った鶏だけを高値で買い取った。そして“跑歩鶏”というブランドを冠して販売し、成功を収めた。農民の高い付加価値創出に貢献した事例である。脱貧困だけでなく、都市住民の食品安全問題も解決をみたという。 もう一つは、江蘇省泗洪県人民政府と提携した“田園総合体”計画だ。これは一種の農業テーマパークである。美食街、稲田、個性的民宿、京東便利店などで構成され、観光客は、種蒔き、養殖、見学、保養など、さまざまな体験ができる。やはり農民の増収、早期の脱貧困を目指している。 ■碧桂園の取り組み 碧桂園は新趣向の大規模マンション開発などで、急速に知名度と存在感を上げた、不動産業界の新旗手である。洗練されたイメージは、あまり農業とはマッチしていない。その碧桂園が現代農業に“進軍”するという。 6月中旬碧桂園は「農業科技創新論壇碧桂園現代農業品牌発布会」において、この意向を明らかにした。“農民増収、農村発展、郷村振興”を旗印に掲げた。 アリババと同様に、袁隆平氏の雑交水稲の研究開発に投資している。それ以外にも、世界一流の農業生産技術、設備を導入し、農家発展の新しいビジネスモデルを模索する。また農業テーマパーク、さらに農機や種苗業にも進出する。 また2017年に「鳳凰優先」という食品スーパーの展開を始めた。こだわりの高付加価値商品で固められている。1年で30店舗を開設し、ネット通販の京東にも旗艦店を出店した。 ■5つの方向性 記事は最後に、新たに資本を得た農業の方向性を5つ挙げている。 1……人材の育成は、官民の協力で行う。 2……資本投下は、新技術と新商品の開発が重点となる。 3……自己の強みを生かした、新しい商業モデルの構築を模索する。 4……AIを用いて、細分化された各分野を結合させ、競争力のある商品作りにつなげる。 5……国家による重点的施策は継続し、市場空間の拡大が見込まれる。 官民ともに積極的な攻めの姿勢は間違いない。農業は活性化し、花形産業に戻った感すらある。商品のレベルアップを望む消費者と、農村の脱貧困を目指す政府を、取り持つような形で、異業種巨大企業が進出してきた。プロジェクトそれぞれの成否は今後にかかっている。しかし守りの発想のないことだけは確かなようである。